小鼓草子2020

小鼓方観世流能楽師岡本はる奈のブログです。舞台・ワークショップ・稽古場案内と日々の出来事など。横浜、相模大野、東京杉並区にて小鼓指導しております。フランス語版ブログhttps://notesdunkotsuzumi.blogspot.com/

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能楽研修生だったころ ㉔

〜24 5年目の始まり〜

 東日本大震災の影響を受けた4年目は、節電のために夏の東西合同研究発表会の場所が東京から大阪に変更されたり、知り合いにも震災に関連した不幸があったものの、6月・10月の研鑽会で鼓を打たせてもらい、初能から1年後の2012年の3月の研鑽会では能「巴」を打たせていただきました。

 研修の5年目の2013年は、あれほど恐れていた30代にあっさり突入し、そろそろ「研修修了」の文字が近づいてきます。

 同期の研修生は、6年を待たずに早期修了を流儀の先生が希望しているという話も聞きつつ、私の師匠は「むしろ6年でも少ないくらい」と言う様子でしたのでその可能性は無し。研修以外の夏の稽古会などにもちらほら参加しだしつつ、観客の入る大きな舞台で能を打たせてもらえるのはまだ研鑽会だけだった記憶があります。

 この頃、研鑽会を観に来た人たちにとったアンケートを一度だけ見せてもらいました。確か他の女性能楽師シテ方)の人たちと一緒に読んだと思います。好意的な感想もあるものの「女性の能楽師のレベルが低い」「小鼓の女性の声がヘン」と書かれていて、小鼓の女性=自分ということで、落ち込むというより傷ついたり。そうでなくても囃子方として掛け声の難しさに思い切り悩み続けていました。

 舞台に出るということは当然、批評をされる側になるということ。お金を払ってチケットを買って「観に来てよかった」と思う人もいれば「こんなのにお金を払ったなんて!」と思う人もいるでしょう。能楽研鑽会は無料の会でしたが、見られる側にいることの厳しさは打てる曲や機会が増えるほど感じています。 

 ちなみに毎日国立能楽堂に通い袴姿で過ごすのも、5年目ともなると何だか能楽堂に住んでいるかのように皆一様に所帯じみた様子になっておりました。バレエや歌舞伎等、他の研修生(国立劇場新国立劇場文楽・組踊りなども)と一緒に「五館合同特別講義」を聴きに行った時など、際立ってフレッシュさの無いのは能楽研修生の私たち(他の研修所は1〜3年くらいで顔ぶれが更新される)。そして稽古や舞台で怒られ続けているためなんだか暗いという。オペラ研修生が先生たちと笑顔で雑談している光景が眩しすぎた……。

 そんなこんなで卑屈さMAXだったこの頃。もう研修の折返しも後半に来たという焦りもありつつ私は「6年目が終わったら、4人揃って修了公演をやるのだろうな」と、ぼんやりと確信していました。