小鼓草子2020

小鼓方観世流能楽師岡本はる奈のブログです。能楽舞台告知、稽古場案内等致します。横浜、相模大野、東京杉並区にて小鼓指導しております。

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能楽研修生だった頃 ⑰

〜17 養成課の人々〜

 

 国立能楽堂の研修生の日々のお稽古や6年間のスケジュール、指導の先生方との連絡などは企画・養成課(普段は「養成課」と私たちは言っていますが)に配属された、独立行政法人日本芸術文化振興会の職員さんたちが務められています。

この芸術文化振興会、東京では国立能楽堂以外に国立劇場新国立劇場などもあり、大阪は文楽劇場、沖縄では組踊の研修生を養成する国立劇場おきなわも同じ独法のグループになります。と、いうわけで職員さんたちはある時はバレエ・オペラの劇場公演や発表会に携わり、またある時は歌舞伎、異動があれば大阪で文楽劇場でお仕事…と書き連ねるだけでもバリエーションに富んだ芸術の企画や後継者の養成に関わるそうです。

思えば、最初の研修所試験から6年間の稽古や健康状態にいたるまで、養成課の人々にお世話になったことは数しれず、しばしば弱っていたメンタルもかなり支えてもらいました。

 ほかの芸術では歌舞伎の研修生は若年層が多く、バレエ・オペラは基本的に経験者が入ってきて、沖縄の組踊は小さい頃から組踊に触れていた地元沖縄の若者が多いそうです。

その中で

・際立って研修期間が長く

・音大で習っていた、などという前提がなく、初めて本格的にその芸術に触れるという人も多く(親が能楽師だった人は「研究生」という形で稽古をします)

・イメージできるかぎりではものすごく敷居が高く

・多分一般の人では一度も観たことがない人が多そうな芸能の

……「能楽研修生」

 

きっと、能楽堂の養成課でお仕事をされていた皆さんは大変だったと思います(特に8期の時?)。

歴代の研修出身者の話を聞くと、養成課の職員さんたちとの関わりが薄い人ももちろんいますし、あえて距離をとっていたという人も。

因みに私たち8期は研修終了後も若手能の公演に来ていただいたり、研修中はもちろん修了後もお話させていただく機会が多くありました。

今はあのころの職員さんたちは皆異動でいらっしゃいませんが(他の課に戻って来れれたかたもいるのかな)、研修生時代を思い出すと様々なエピソードとともにそれぞれの顔が浮かんできます。

研修試験のあとで「応援してるからね!頑張ってね!」と声をかけてくれたFさん。

大先生(故・観世豊純先生)が「あの子は18歳くらいかねえ」と、異動してきた瞬間に10代と思われたTさん。

しっかりもので研修生の世話をいろいろと焼いてくれたイタリア愛あふれる係長や明るい声のおしゃべりに癒やされたFさん。

物静かに見えて、話しかけるとその引き出しの多さに驚いたIさん。

養成課をやめた後も能の公演のお手伝いにきてくれたHさん

…皆さんお元気でお過ごしでしょうか。

山種美術館で日本画に癒やされる。

  東京に続いて、神奈川県等でも「まん防」が適用されることになり、再開した相模大野の稽古場もどうなるか…と思ったら、時間を短縮して公民館の貸し出しを継続とのこと。まずは、ほっとしました。

 

いろいろ不安なことも多いので、癒やされたいという思いが強く…昨日は1人で山種美術館日本画鑑賞へ。本当は後輩たちと着物で行きたかったですが、予定が合わないのと時節柄ひとりのほうが良いのと。

 

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少し道に迷いました。

渋谷からバスを利用、歩くこと数分で美術館がみえます。ガラス越しに中のカフェで着物姿でお茶を飲む人たちが見える…いいな〜(私も後輩とやりたかった)

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ほんとうに、久しぶりの訪問です。


 現在「百花繚乱展」開催中とのことで、奥村土牛小林古径・山口蓬春等の優しい色合いの花の絵がたくさん展示されていました。

第2展示室は牡丹特集。一面に牡丹が描かれた屏風の前に立っていると、すいこまれそうな気分になります。

 一階のカフェ「椿」では毎回展示の絵に関連した和菓子がいただけます。今回はお家用に和菓子を購入。

小林古径が好きなのに、選んだ2つはどちらも違ったことに後で気が付きました。

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和菓子のモチーフになった絵もはがきで買いました。

芸術も音楽も、なかなか肩身がせまい時代ですがゆっくり絵と向き合うとやっぱり「芸術って大事だな」と思います。

帰ってきて家族に「顔つきがすっきりしているよ」と言われました。日本画のいやし効果かな。。。

5月6月舞台のご案内

 日差しは暖かく、風は少し冷たい一日。

風邪をひかないように、まだまだ油断ができません。

 

以下の会にて、能や舞囃子を打たせていただく予定です。

5月21日17時半  国立能楽堂定例公演 狂言「蝸牛」 於 国立能楽堂

5月30日13時開演 緑泉会例会     能「鶴亀」  於 喜多六平太記念能楽堂

6月15日13時開演 第25回 青翔会  舞囃子「枕慈童」   於 国立能楽堂

6月27日   観世新九郎師社中会 味麻之会 番外囃子「実盛」於 国立能楽堂

 

お時間のある方はぜひお越し下さい。

能楽研修生だったころ ⑯

〜16 おん祭・続き〜

 

 前回、研修3年目の11月に奈良県春日大社の「春日若宮おん祭り」に行き、深夜に始まった御神事から、舞楽の奉納を観たところまでお話しましたが、その後深夜2時過ぎに宿舎に帰ってきた私たちは睡眠をとり、次の日正午から始まる、芸能の奉納を見学することに備えました。

篝火の中での舞楽の奉納は神秘的だったけれど、とても寒かっただけではなく数時間煙にいぶされて、コートもマフラーも自分自身もすっかり燻製のような匂いを発していました。

眠る前にお風呂に入ったついでにマフラー等洗えるものは洗って、加湿の機能も期待して暖房の入った部屋中に干して…おかげで乾燥で喉を痛めることもなかったのが後々効いてきました。

 正午前に春日大社を再び訪れ、多くの観客にまぎれて「影向の松」の前での古来からの芸能の奉納と、続く「御旅所」での舞台を見学しました。

 翌々日に東京に戻ってきた時、あれだけ注意されていたにも関わらず、研修生4人中2人が風邪をひいたという…やっぱり夜通し神楽や舞楽を見学するのはみんな身体に堪えたようです。

 因みに私は平気だった…よく食べ、よく寝たせい?

 

 研修を修了してもう何年もたちますが、能以外の芸能を、それも古来から続くものをこれだけ一度に観られたのはこの時が一番だと思います。

大和舞・東遊び・細男・舞楽雅楽に etc…

謡曲の中の「東遊のかずかずの」あるいは「舞楽をなして舞いたもう」「糸竹呂律」をそれまではただの言葉として謡っていましたが、急に自分の中で立体的になった感じ。

実際に芸能を観たことでこれらの謡が自分のなかで生き生きとしてきたのを覚えています、物語の主人公が実際に生きてしゃべりだすくらいの違いがありました。

「神楽」も「楽」もお能を知らない人が初めて観たら、きっと退屈。私も学生時代はよく眠ってた…でも、その向こうにあの春日大社の境内で、松に囲まれ篝火に照らされた中で観た世界を描きながら、舞台では鼓を打っています。

相模大野の稽古場が使えるようになりました。

 今日は久しぶりの相模大野でのお稽古でした。

今年にはいって、緊急事態宣言を受けての公民館の閉鎖→宣言延長による再開の中止→再延長による再びの中止、ともっとも影響を受けた稽古場かもしれません。高井戸・横浜(桜木町)・オンラインのお稽古と振り分けて、可能なかたにはお稽古を続けていただいていましたが、公民館が使えるようになって本当によかった。

とはいえ、大阪に続き、東京も今後を警戒中なので、まだまだ油断はできません。

健康に気をつけて、うがい・手洗い・換気を徹底して…そして、能や小鼓を楽しむ!が今年の稽古場の目標です。

相模大野稽古場は小田急相模大野駅より徒歩10分の公民館にて月2回火曜日18時より、少人数制にて行っております。

能楽・小鼓にご興味をお持ちでしたらぜひ見学におこしください。

(メールにてお問い合わせいただき、折返し日時等ご案内いたします)

 

 

 

 

能楽研修生だった頃 ⑮

〜15 研修旅行・春日若宮おん祭〜

 

「Kちゃんといっしょにフィンランドに旅行してきたの」

そういって学生時代の友人から、ムーミンの枕カバーをおみやげに貰ったのは研修生としてまだまだ能楽の世界には慣れず、いろんなことが初心者で、すっかり小学生気分だったころ。私の実年齢はしっかり20代後半になっていました。大学時代の同級生たちは社会人も板につき、女友達も有給休暇を使って海外旅行をしている時期。

 研修期間は大抵の人がそうだと思いますが、経済的余裕なし&時間なし&気持ちの余裕なし。

似たような感覚におちいるのどんな状況でしょう?大学院博士課程に行っていた先輩で同じような悩みを聞いたことはあります。

もちろん気分転換に海外行くわけもなく…そんな研修2年目、研修旅行ということで奈良に行く機会が!国内でも関東圏以外の移動がほぼない時期なので嬉しかった。

研修旅行で能に関連のある行事や史跡を訪ねるということは、先輩方のときも行われていたそうです。引率は国立能楽堂の職員さんたち。

師走の風が吹く東京を出発、わたしたち8期生4名は奈良県奈良市春日大社で行われる「春日若宮おん祭」を観に行きました。

 

2009年12月16日。

「とにかく、ものすごく寒いからね!防寒対策しっかりしていきなさい!」という、養成課の係長さんの言葉もあり、マフラー、コートはもちろんのこと、ヒートテックの下着や貼るカイロ、ブーツと靴用のホッカイロに予備の手袋…と考えつく限りの防寒グッズを携帯して、向かった先は深夜の春日大社

ブーツの中敷きに入れた靴用カイロや二重にはめた手袋のおかげで身体はポカポカと暖か。

日付が変わる午前0時に本殿から出した御神体が暗闇中、榊の葉で隠されながら御旅所に移されます。道を浄めるために松明を引きずったところを御神体を持った神官たちがすすみ、道のあちこちに残っている火の粉と差し込む月の光だけが見える。その場にいる人たちは皆「ミサキの声」を発せなければならずちょっと恥ずかしいと思いながらも「ヲー、ヲー」と暗闇の中、周りの人と一緒に唱和。歩いているのでまだここでもそこまで寒くはない。

御旅所に御神体が移ってからは、パイプ椅子に座って「暁祭」を見学。口元が寒いのでマスクをしてマフラーをぐるぐる。この時点で大体午前1時。段々と寒さが身体にしみてきます。

 それぞれの座っている椅子の足元には熾した炭火が点々と置かれていました。手を近づけると暖かい…と、指先が炭に触れた瞬間「ジュッ」と音がしてフリース手袋に大きな穴が空きました。

御旅所の御神体が収まる仮造りの神殿の前の広場では祝詞に続いて神楽が奉ぜられます。篝火に照らされた中で神秘的…でも……篝火の煙が風であちこちにいって、しっかりコートもマフラーもいぶされて、眠気も手伝い、お腹もちょっと空いてきて…今思えばもったいないのですが、半分眠りながら、しっかり神楽を見ていたとはお世辞にも言えない状態でした。




 *「春日若宮おん祭り」は平安時代から870年以上に渡って続いているというものすごく由緒正しいお祭りです。普段は若宮神社に祀られている御神体を「御旅所」と呼ばれる仮設の社に移し、神様をもてなすために神前で日本古来からの芸能が次々と奉納されます。もちろん能も「猿楽」として参加しています。

能楽研修生だった頃 ⑭

〜14 研修生は痩せる?〜

 

 数年前、後輩の研修生が「楽屋の食堂でお昼を食べるといつもご飯が大盛りで、ある日”そんなに食べられません”と言ったら食堂の人に”アレ?いつも大盛りだったよね?”と言われました…多分人違いだと思います」と私に言ったことがありました。

 

 それは、わたしです。

 

研修生のころ私はお昼はいつも楽屋食堂で、そしてご飯は大盛りで(茶碗もどんぶり)がスタンダートでした…。

 研修開始した当初は体重が増えた(菓子パンの食べすぎ)のですが、半年後に自分の流儀が決まって本格的に稽古するようになってからはずっと、6年後研修を修了するまで毎日大盛りご飯を食べても太り過ぎとは無縁でした(それなりにがっしりはしていました)。お昼だけではなく、アルバイトのあとに大盛りカレー(某カレー屋さんでアルバイトをしていた時期がありました)を食べたりして、多分普通の人の倍くらい食べていました。

 毎日のように謡や囃子の稽古があり、食べた分だけ消費していたようです。最後の6年目の修了公演前には、スタミナをつけたいのと声に強さを出したくて、体重を増やそうと意識しましたが、毎日の稽古で全然増えず。

私だけでなく、同期の研修生も一様に研修生の時には痩せていたような…あんまりにもガリガリだからと、職員の方から心配される人もいました。同期の場合、普段の食事の量もそもそも少なかったようですが。

舞台で能を打たせていただいたり、普段の稽古で大汗をかくので消費カロリーは同年代よりも多いハズ。加えて舞台や楽屋では緊張することが多いので、精神的にもあまり太りにくい環境なのでしょうか。

 後輩の研修生を見ていると、やっぱり研修2年目に入ったあたりではみんな痩せていて、特に4~5年目あたりは肩が薄くなっているような…能楽の研修生ってダイエットに有効なのか?

シテ方のお話ですが「乱」のお稽古などでは30分で3キロ痩せることもあるそうです。お能の舞、恐るべし。

 ちなみに研修を修了して何年もたった今では食べた分だけしっかり身につくことを実感しています(汗)。

そろそろ年齢的にも、食べすぎないようにしなきゃ…。

 

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昨日「志賀」を打たせていただいた宝生能楽堂近くの桜。お越しいただきました皆様、ありがとうございました。