小鼓草子2020

小鼓方観世流能楽師岡本はる奈のブログです。舞台・ワークショップ・稽古場案内と日々の出来事など。横浜、相模大野、東京杉並区にて小鼓指導しております。フランス語版ブログhttps://notesdunkotsuzumi.blogspot.com/

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能楽研修生だった頃⑦

〜楽屋働き、荷物持ち〜

 さて、兄弟とルームシェアしながら、国立能楽堂で稽古を始めた研修生1年目ですが、私の場合それに加えて「先生の荷物持ち」という仕事が割と早くから発生していました。

 文字通り、朝早くに先生の家の近くに行って(なぜか家の付近から先は入れてもらえず)道具と着物のカバンを持って能楽堂までお供する。あるいは、能楽堂から家の付近までの帰り道を荷物を持つというそれだけ。

 能の公演は数日前に「申合せ」と呼ばれるリハーサルがあり、朝から行うところが多いです。それに向かう先生のお供をするということですね。

 能楽師には「楽屋働き」と言って舞台に出る同じ流儀の先生や先輩を楽屋でお手伝いする仕事があります。若い人がやると決まっているわけではありませんが、楽屋の作法や舞台の勉強をするという意味で若手の仕事としては多いです。

荷物持ちはこの楽屋働きの一部分。

 なぜ楽屋に入らないかというと、まだ養成科の適性検査で流儀が決まっていなかったからか?他の先生に紹介するわけに行かないらしく、また楽屋にまで入れてしまうと、午前中の研修の稽古に間に合わないということもあり…なんとも中途半端ではありますが、そうした期間がありました。

後から先輩たちの話を聞いたところ楽屋働きや先生の手伝いについては、研修4年目から始める人のほうが一般的だったようです。つまり、これについてはあくまで私の先生の判断でした。

早く楽屋の仕事や能楽について触れられる一方で、稽古にバイトにと激変した生活に追われている当時の自分にとっては本当にきつかった。しかも楽屋やお家の手前で追い返されるって…。結果的にその時の経験が今は結構役に立っているので、先生に感謝しています。

 思えば、最初に研修生として試験を受けたときから、女性を入れること、囃子方にすることについては色々な意見があり、受け入れる流儀の先生の方でも「自分の流儀で受け入れて大丈夫なのか」「ちゃんとプロとして育てられるのか」といった葛藤があったと思います。

 早めに大変さを教えよう、あるいは楽屋働きに早く慣れさせようという、先生なりに弟子の将来を考えてのことだったようです。