〜それぞれの選択〜
研修5年目が終わらんとする頃、ワキ方・狂言方の同期研修生はどうやら早期修了ということで6年目に研修稽古を受けるのは私一人であることが確定的になりました(寂しい!)。
修了公演を六年目の終わりに行うのは変わらず、もともと個別に受けることが多くなっていた謡や囃子の稽古ですが、ますます一人ぼっち感が強くなります。
研修が早期修了するメリットは、自分の流儀の活動に全力投入できること。師匠の方でも養成の研修の予定を気にせずに、晴れて流儀の一員として他の舞台での役や働き(手伝い)等に連れて行くことができます。また、研修生の間は貸与という形で支給されていた奨励金ですが、修了後数年活動したら返済が免除になるので、その免除の期日が早く訪れるという点でも良いかもしれません。
一方デメリットとしては何と言っても舞台や生活面での不安、とりわけ研修修了=経済的に自立とはならない点です。そもそも六年の研修が修了したとしてもしばらくは生活が大変だったという先輩が圧倒的に多く「基本ができるようになるまで10年はかかる」と言われている世界で、急に舞台が増えるわけでもないということ。
能楽の修行の期間の長さはなかなか後継者が増えない一因だとも思います。最初はやる気だったけれども月日が立つうちに誰でも少しは「このままでいいのか?」と悩みだします。アイドルのように最初は目立っていた人が、必ずしも最後まで同じとは限りません。
5年目の終わり。4人だった研修生が3人になると知らされた時、最初に思ったのは「どうして?ここまできたのに?私と違って女だからと役を制限されることもないのに?」ということでした。
ひきとめたいと思ったものの、結局それから一度も会うことがなく同期の1人が静かに去っていきました。
年月が流れていくのは皆同じ。それぞれ稽古をして、悩み、生活をしていく中で出した結論だったと今では思います。