小鼓草子2020

小鼓方観世流能楽師岡本はる奈のブログです。舞台・ワークショップ・稽古場案内と日々の出来事など。横浜、相模大野、東京杉並区にて小鼓指導しております。フランス語版ブログhttps://notesdunkotsuzumi.blogspot.com/

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能楽研修生だったころ ⑯

〜16 おん祭・続き〜

 

 前回、研修3年目の11月に奈良県春日大社の「春日若宮おん祭り」に行き、深夜に始まった御神事から、舞楽の奉納を観たところまでお話しましたが、その後深夜2時過ぎに宿舎に帰ってきた私たちは睡眠をとり、次の日正午から始まる、芸能の奉納を見学することに備えました。

篝火の中での舞楽の奉納は神秘的だったけれど、とても寒かっただけではなく数時間煙にいぶされて、コートもマフラーも自分自身もすっかり燻製のような匂いを発していました。

眠る前にお風呂に入ったついでにマフラー等洗えるものは洗って、加湿の機能も期待して暖房の入った部屋中に干して…おかげで乾燥で喉を痛めることもなかったのが後々効いてきました。

 正午前に春日大社を再び訪れ、多くの観客にまぎれて「影向の松」の前での古来からの芸能の奉納と、続く「御旅所」での舞台を見学しました。

 翌々日に東京に戻ってきた時、あれだけ注意されていたにも関わらず、研修生4人中2人が風邪をひいたという…やっぱり夜通し神楽や舞楽を見学するのはみんな身体に堪えたようです。

 因みに私は平気だった…よく食べ、よく寝たせい?

 

 研修を修了してもう何年もたちますが、能以外の芸能を、それも古来から続くものをこれだけ一度に観られたのはこの時が一番だと思います。

大和舞・東遊び・細男・舞楽雅楽に etc…

謡曲の中の「東遊のかずかずの」あるいは「舞楽をなして舞いたもう」「糸竹呂律」をそれまではただの言葉として謡っていましたが、急に自分の中で立体的になった感じ。

実際に芸能を観たことでこれらの謡が自分のなかで生き生きとしてきたのを覚えています、物語の主人公が実際に生きてしゃべりだすくらいの違いがありました。

「神楽」も「楽」もお能を知らない人が初めて観たら、きっと退屈。私も学生時代はよく眠ってた…でも、その向こうにあの春日大社の境内で、松に囲まれ篝火に照らされた中で観た世界を描きながら、舞台では鼓を打っています。