〜道具(楽器)について〜
選考試験で自分の流儀が決まる前から、囃子方の場合はいずれは自分の楽器が必要であることを聞かされていました。
能楽師はそれぞれの役の専門職であり、プロで活動とするならば道具や着物も基本的には自前で用意です。研修生の場合は以前書いたように、紋付き袴や稽古用の着物等は貸してもらい、修了後にはそのままいただけるので、問題は道具。ワキ方や狂言方の舞台装束は流儀の家元の先生が管理されていて舞台の際は借りるので、同期の他の研修生が必要なのは装束の下に着る胴着(白い綿入れみたいなもの)くらい。囃子方の場合は自分の楽器を手に入れなければなりません。お店ですぐ買ってすぐに鳴るような楽器でもない。
私は研修1〜2年目は養成課にあった小鼓の筒と革中から合いそうなものを組み合わせて借りて使っていました。ちょうど、自分の先生が道具(小鼓)を集めていた時期でもあり(家元の先生たちは皆さんたくさんご自分の道具を持っています)自分には手が届かない高価な道具も含めていろいろな道具を見て、打ってみて、勉強することができました。
そう、能の楽器、特に小鼓の場合は革同士の質や相性、筒との組み合わせ、あるいはその筒の性質によって出る音がまったく違う。
良い筒はどの革を組み合わせてもその良さを最大限に引き出すし、そこまででなくても組み合わせによって驚くほど良い音がでることもある。逆に、見た目はきれいなのに全然鳴らなかったり、ベニヤ板を叩いたほうがまだ音がでるんじゃないかと思うような革もあります。
作ったばかりの革(新革)は良い音が出るまでに長い時間をかけて慣らしていかねば鳴らないので、もっぱら先生が道具屋さんで古い革を試しているのを横から見て、自分の革を探していました。
同年代の他の流儀で私と同じようにプロを目指したという人の中には新しい皷を十年以上かけて良い音が出るように育てた人もいました。
小鼓だけが大変かというと、そういうことはありません。大鼓は舞台前に火鉢で炙るために革の疲労が激しく、しょっちゅう新しい革を用意する必要があるとか。
和も洋も、楽器が決してお安くないのは、ご想像の通り。もしかしたら、こういう所も囃子方が少ない原因なのかな?
小鼓の革も寿命があり、また破れたりもするので一生同じものを使い続けることはできず。私も今は研修時代とは違う組み合わせの革を使っていますが、筒は自分で買ったものに加えてあの頃先生から譲って頂いた筒が、今でも舞台で活躍中です。
道具については書き出すとどんどんマニアックな方向に続いていくのでこの辺りで…。
明後日はひな祭り。雛人形を見ると、五人囃子の順番の確認をしてしまいます(^^)
今週のお題「雛祭り」